一文30文字
ライティング講座を受講したいという妻のために過去の「天声人語」が収録された単行本や文庫を一か所にまとめたり、ライティング関係の蔵書を並べてみました。私のお気に入りは、深代惇郎と辰濃和男です。このお二人の「天人」については、別に同記者の名を冠した単行本・文庫になったものも若い頃に読みました。今まで書棚にひっそりと佇んでいたこれらの書籍が彼女の役に立てばいいがなと思います。
私の文章は言葉同様に冗長で、わかりにくいのだろうとなと改めて反省させられながら、昨日、一気に読み切った『仕事文の書き方』をご紹介させていただきます。データとしては古いですが、参考になるのではないかと思いましたので以下の引用をさせていただきます。なお、引用文中の辰濃和男さんはすでに故人となっております。
志賀直哉、川端康成の作品は、広範囲の読者層をもっている.事実、日本に留学している外国人に一番親しまれている作家も、この両者である.
-高橋昭男『仕事文の書き方』(岩波新書、1997年8月20日 第1刷発行) 117-9頁
理由を聞いてみると、わかりやすい文章だから、という答えが返ってくる.筆者なども中学生時分に親しんだ作品といえば、『小僧の神様』や『城の崎にて』であり、また『雪国』『伊豆の踊子』である.
代表作の一部を抜粋し、1センテンス当たりの平均文字数を算出すると、
・志賀直哉 33文字
・川端康成 35文字
という結果が得られる.つぎに、情報処理学会で発表された小学、中学、高校の教科書から抜き出したサンプル文についての数値を紹介する.
・小学3年生の教科書 25文字
・児童雑誌 29文字
・中学3年生の教科書 42文字
・高校3年生の教科書 46文字
このとおり、低学年にいくほど、短い文が使われている.短い文=読みやすい文なのである.
そして、われわれが、なれ親しんでいる「天声人語」「余録」などの新聞のコラムの文も一文30文字平均で書かれている.
朝日新聞で長いあいだ「天声人語」の執筆に携わってきた辰濃和男氏(現在、日本エッセイストクラブ会長)は、著書『文章の書き方』(岩波新書)の中で、一文30文字を目標にして「天声人語」を書いてきたと述べている.
このような理由から、一文を短く書くことが、仕事文のルールである.