落ち穂ひろいmini polvo

echar un polvo

 『クラウン西和辞典』には polvo は「ほこり」を意味する重要語として記載があります。他に「《卑》性交. echar [pegar, tirar] un polvo セックスをする」の説明もあり、至れり尽くせりです。この語義を知っていれば次の引用文中の polvo の意味は容易に理解可能ですね。

-Si les haces caso a los médicos, estás jodido. No bebes, no fumas, no follas. Los médicos están para eso, para amargarte la vida, macho. Juanra, se me escapa un polvo. ¡Julieta! Julieta, espera.
-¿Qué?
-¿Y tu madre?
-¿Qué pasa con mi madre?
-Que tengo que devolverle estas llaves. Soy el hijo de la que alquilará la peluquería. No te hagas la despistada. Nos vimos la otra tarde.
-¿Por qué me llamas Julieta?
-Pareces italiana, ya te lo dije.
-Ya, pero me llamo Herminia.
-No es verdad. Te llamas María y eres amiga de África.
-Hace mucho que no la veo.
-Qué lástima.
-¿Lástima por qué?
-Porque tienes los ojos más bonitos de España.
-No, te has quedado corto. Del mundo. ¿Me das las llaves?
-Me falta medir los espejos y ya.
-Vale, pues las dejas en el bar.

“Cuéntame cómo pasó” – Capítulo 374: “Mayday Mayday”

 ところで、以前、『現代スペイン語慣用成句小辞典』(同学社)という著書を紹介させていただいたことがありますが、同書にも echar un polvo 「〈卑語〉 fornicar (姦淫する)の俗表現」との記載があります。さらにその由来についても言及されていますのでご紹介させていただきます。

由来については、最も古いものは「旧約聖書」創世記第三章で、蛇の誘惑に負けて禁断の実を食べたアダムに、神が告げたことば «polvo eres y al polvo volverás» (塵に過ぎないお前は塵に変えるであろう)で、polvoを性行為の意で使っているとする解釈からの引喩説から、また単に「詰まり」を除く行為とする現代的な解釈までいくつもの説がある。この成句では不定冠詞付きで使う。ちなみにカトリック教会の行事で、CUARESMA(四旬節)の初日にあたる Miércoles de ceniza「灰の水曜日」には、礼拝者の額に灰で十字架の印をつけるが、その時に神父がおごそかに唱える言葉が«polvo eres y al polvo convertirás» という。ここでは、人間が死ぬべき存在であることを忘れないようにという意味である。

『現代スペイン語慣用成句小辞典』(同学社) 100-101㌻

 また、同辞典は女性がよく使う言い方として echar un casquete という成句があることも教えてくれます。

 標記の成句については他にも言及している本があるので、この機会に手許にある類書からの転記をお許しください。

Echar un polvo. polvo は「粉」「ほこり」のこと。fuck すると疲れて、身体が粉々になるように感じるから、「粉を投げる」で fuck の意味だ。Estar hecho polvo は「非常に疲れた」を意味するので注意。

-榎本和以智:『俗語で覚える入門スペイン語会話』(南雲堂新書スペシャル) 62㌻

 本当に説明が難しい表現で、というのは精液は白いという以外に粉とは関係なく、一方は液体で他方は固体だから。しかし、フロイドが、スペイン語で女性のノイローゼの原因が “polvos” (複数形で「化粧用のパウダー」の意味)が足りないこととか、休み無く “polvo” (単数形は「埃」の意味)を掃ったりすることによって特徴付けられると知ったら大喜びするだろうなあ。(やや俗な表現である)
(miércoles de cenizaと関係があるという説を某著名な作家がテレビで言ったが、果たして正しいだろうか? あとがきを参照のこと)

(あとがき) 某氏によるとある有名な作家がテレビで次のように言ったとのこと:内乱後男が減ったため、教会では「灰の水曜日」には聖灰を信者の額につけながら子作りに励むようにと言った。家に帰ってからすぐそのように励んだので、額についた聖灰がおちたことからこの表現が生まれた。真偽のほどは定かではないし、教会がセックスを奨励したなんてことはあり得ないと、他のだれもこの説には賛成しなかった。(同書 250㌻)

-『スペイン人はこう話す!-気持ちを伝える視覚表現150-』(芸林書房)108㌻

 以上のように、これはスペイン語学習者としても興味深い成句でもあるため、何度かその説明を目にしていたものですから備忘のためにも記録させていただきました。
 なお、普段お世話になっている俗語辞典 Diccionario de argot (Julia Sanmartín Sáez: Espasa Calpe) には morir como las cucarachas, a polvosという表現や、polvo は他に cocaína を意味するとの記述もあります。お粗末さまでした。